クラウゼヴィッツやトゥキュディデスの本などを読みながら国際ニュースを読み解きます。

2009年11月アーカイブ

11月20日、政府は11月・月例経済報告にて「デフレ」の文言を再び使用し、「物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある。」とデフレ宣言を行いました。


現在の日本は、消費者物価はまだ7か月連続の下落に留まっているものの、名目成長率と実質成長率の逆転が2四半期連続で発生していること、4~6月期の需給ギャップが40兆円もの大幅な供給超過に陥っていることなどが今回のデフレ宣言につながったと考えられています。しかし、国際通貨基金(IMF)の定義によれば、デフレとは消費者物価を念頭に「2年程度下落が続く状態」と考えられているため、日銀は政府のデフレ宣言を早急だと受け止め懐疑的に受け取っています。


日銀は、消費者物価については年明けまで様子を見た方がいいというスタンスであり、雇用に関しては指標を見る限り上向きという流れとなっています。また、内閣府「今週の指標」では、2009年7-9月期の需給ギャップは-6.7%、2009年4-6月期は-7.5%だったため改善したという判断が示されています。


この中、ユニクロ、ニトリなど価格競争にて優位を保っている企業が批判にさらされ、各シンクタンクの分析では需給ギャップの解消方法を主に政府の支出に期待する向きが強まっています。


私は、経済の状況が厳しいにしても、今回のデフレ宣言は早すぎたのではないかと思います。デフレの判断には政治的なことがらをなるべく排除して判断する必要があるにもかかわらず、今回は経済対策を打つ必要性から盛り込まれた要素も非常に強いと考えられるからです。


そもそも20日のデフレ宣言は、日銀の政策金利が発表される20日前日の経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長の「日銀は強い姿勢でデフレと戦うべきだ」という発言と呼応しているように見えます。そこでは、超低金利政策の継続と日銀に対する国債買い取りの増額が提案されていました。経済対策を打つ必要性を後押しする提案だったため急遽、デフレ宣言が発せられた可能性も考慮するべきでしょう。


政府と日銀の応酬を注意深く見守ると同時に、経済の基本的な環境を掴む努力(人口減少)、長期的に持続可能な経済(国債増発に対する懸念)、台頭著しい新興国の為替(特に中国・人民元)の問題等をより明示的に話し合えるようにすることが必要だと感じています。


研究所

レポートの副題

第一生命経済研究所 輸出主導の景気回復が続く。10年度後半は踊り場へ~
日本総合研究所 政策効果一巡などを背景に、2010年前半はマイナス成長に ~
農林中金総合研究所 デフレ下、緩やかな景気回復が継続ただし、2010 年前半にも一時的に足踏みする可能性大
みずほ総合研究所 個人消費を巡るファンダメンタルズの改善も期待薄、企業の保守的な投資行動は当面持続、デフレ持続、外需は増加基調、景気は政策の出方次第(レポートの日本経済の部分)
明治安田生命 日本経済は一旦停滞感を強める、2010年度は上向くが力強さはない
ニッセイ基礎研究所 緩やかな回復では戻らない経済活動の水準
野村證券金融経済研究所 日本経済:本格回復に向けた調整期間へ
三菱総合研究所 日本経済は緩やかに回復
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 反動減の大きさが懸念されるが二番底は回避へ

今回は、各シンクタンクの「踊り場」の時期と、それより悪化した状態の「二番底」についての分析をご紹介します。


(1)「踊り場」についての分析


多くのシンクタンクは、2010年度に一度景気の調整局面(「踊り場」)が来ると予測しています。その時期は、前政権の景気対策が切れる時期と現政権の政策が実行される時期の間と分析するシンクタンクが多く、異色なのは外需を中心に分析した第一生命経済研究所となっています。


①2009年度末~2010年度前半に「踊り場」


 9社中、8社はこの時期を日本経済の踊り場だと分析しています。


 原因はエコ制度の終了が迫っていること、公共投資の減少、雇用・所得環境の改善の遅れまたは悪化、円高による企業収益の悪化、海外の回復がひと段落することなどが原因と分析されています。


 内需を中心に分析した場合、子ども手当などの政策が実施されるころから、再び成長が始まるつまり、公共投資の削減効果より所得移転効果が上回るという予測が多くなっています。


②2010年度後半に「踊り場」


 今回出揃ったレポートの中で異色なのは、第一生命経済研究所の2010年度後半という予想。外需から分析を進め、米国の経済対策効果が消えること、中国が上海万博後の景気減速を迎えるという予測から、需給ギャップが供給超過の日本が再び外需に頼れなくことに注目しています。


(2)「二番底」の可能性


 各シンクタンクとも再び景気が著しく悪化する「二番底」の可能性は低いと分析しています。主な理由としては、アジアの景気回復、欧米の持ち直しからくる外需の増加です。しかし、三菱総合研究所と、みずほ総合研究所は世界経済が再び苦境に立たされる要因について分析しています。


●要因1:新政権の財政政策を巡る不透明感

●要因2:欧米の本格回復の前に景気対策効果が消えてしまうこと

●要因3:欧米金融機関の不良債権問題の長期化から再び金融システム不安が再燃すること

●要因4:新興国の成長→商品市況の高騰→先進国経済への打撃


これに対し、野村証券金融経済研究所は、過剰生産能力と過剰人件費という状況はバブル崩壊後と同じだが、住宅バブルがなかったという点でバブル崩壊後とは異なっており、じきに過剰は調整され成長が加速するという予測を立てています。


(3)金利

 通常、国債は安全資産と見なされますが、現在はすべてを疑う気持でさまざまなニュースを読み解くべきだと考えています。


需給ギャップが供給超過に大きく傾いていることから、デフレが長期化し日本銀行は低金利政策を長期間維持するとの予測が多く出ています。それを重視した分析では、長期的には円安を予測しています。しかし、財政の悪化によりインフレが発生するという経路も頭から離さないほうがいいと思われます。

歴史人口学者・家族人類学者であるフランス国立人口統計学研究所に所属しているエマニュエル・トッドの著作をご紹介します。著者は、乳児死亡率の上昇から旧ソ連の崩壊を断言し、予測を当てたことがあまりにも有名な人物です。


さて、今までは、地理的な位置関係から将来を考えようとしてきました。最近私は、「地政学」関連の本を読んできましたが、地政学の大前提は、「地理が人間の行動に与える影響は計り知れない程大きい」というものでした。


しかし、この著作では強調される部分が異なり人そのもの、「人口」に焦点を当て、イラク戦争当時のアメリカの今後を占っています。


キーワードとなるのは以下の言葉です。


●出生率、出産率(合計特殊出生率)、乳児死亡率、平均寿命
●殺人率、自殺率
●識字率、受胎調節
●普遍主義と差異主義
●遺産相続規則
●婚姻、混淆婚率
●女性、男性


この著作をみなさんにご紹介したい理由は、様々な経済誌を通じて、人口減少期にある日本の移民政策が取り上げられるようになってきているからです。しかし、経済誌で取り上げられる以上、そこでの焦点は、「収益率」、「労働生産性」など短期的なものばかりとなります。


この著作は、それら指標に加えて皆さんに人口をめぐる長期的な視点を提供してくれるでしょう。


特に移民を考える上では、各民族間の「識字率の向上→受胎調節の開始→出生率の低下」のスピードが異なることがどのような事態を引き起こすのか書かれた「第1章:全世界的テロリズムの神話」が、また自国の中核的支配層と移民との関係を描いた「第5章:普遍主義の後退」における、混淆婚率の分析が参考になります。


また、この連載記事の第1弾である、ローマ・アテネとの類似点と相違点については「第3章:帝国の規模」、「第4章:貢納物の頼りなさ」、「第5章:普遍主義の後退」が参考になります。


今後、この連載では人口減少期を迎えた日本を焦点に当て、幅広い視点を人口という切り口でご紹介していく予定です。